大判例

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札幌高等裁判所 平成3年(行コ)5号 判決

北海道静内郡静内町字目名一〇〇番地

控訴人

井高清

北海道静内郡静内町高砂町二丁目一一の五

控訴人

佐藤幸四郎

北海道静内郡静内町御園二七四番地

控訴人

藤原昭三

北海道静内郡静内町字目名九二番地

控訴人

岡田牧雄

北海道浦河郡河町字上向別四七〇番地

控訴人

滝沢善次郎

北海道沙流郡門別町字福満三五四番地四

控訴人

白井民平

東京都港区西新橋三丁目九番三号

内山ビル八階

控訴人

滝谷守

右七名訴訟代理人弁護士

本田勇

北海道浦河郡浦河町常磐町二八番地

被控訴人

浦河税務署長 益塚登

北海道苫小牧市旭町三丁目四番一七号

被控訴人

苫小牧税務署長 田崎勝

東京都港区芝五丁目八番一号

被控訴人

芝税務署長 川嶋象介

右三名指定代理人

栂村名剛

吾孫子力

高橋重敏

被控訴人浦河税務署長、同苫小牧税務署長指定代理人

松井一晃

折笠久雄

行場孝之

平山法幸

被控訴人芝税務署長指定代理人

山本千臣

木下茂樹

小宮山真佐路

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人浦河税務署長が控訴人井高清に対して昭和六一年五月七日付でなした昭和五八年分所得税に係る更正の請求に対する更正処分のうち、総所得金額の計算上生じた損失の金額一三二九万六二一四円を超える部分及び昭和六〇年七月四日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六一年五月七日付でなした過少申告加算税の変更決定処分により一部減額された後のもの)をいずれも取り消す。

(三)  被控訴人浦河税務署長が控訴人佐藤幸四郎に対して昭和六一年五月七日付でなした昭和五八年分所得税に係る更正の請求に対する更正処分のうち、総所得金額七五九万三三九七円を超える部分及び昭和六〇年七月四日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六一年五月七日付でなした過少申告加算税の変更決定処分により一部減額された後のもの)をいずれも取り消す。

(四)  被控訴人浦河税務署長が控訴人藤原昭三に対して昭和六一年五月七日付でなした昭和五八年分所得税に係る更正の請求に対する更正処分のうち、総所得金額九八五万一八五八円を超える部分及び昭和六〇年七月四日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六一年五月七日付でなした過少申告加算税の変更決定処分により一部減額された後のもの)をいずれも取り消す。

(五)  被控訴人浦河税務署長が控訴人岡田牧雄に対して昭和六一年五月七日付でなした昭和五八年所得税に係る更正の請求に対する更正処分のうち、総所得金額の計算上生じた損失の金額二一八万七〇〇五円を超える部分及び昭和六〇年七月四日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六一年五月七日付でなした過少申告加算税の変更決定処分により一部減額された後のもの)をいずれも取り消す。

(六)  被控訴人浦河税務署長が控訴人滝沢善次郎に対して昭和六一年五月七日付でなした昭和五八年分所得税に係る更正の請求に対する更正処分のうち、総所得金額三三二万八一七六円を超える部分及び昭和六〇年七月四日付でなした無申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六一年五月七日付でなした無申告加算税の変更決定処分により一部減額された後のもの)をいずれも取り消す。

(七)  被控訴人苫小牧税務署長が控訴人白井民平に対して昭和六一年五月六日付でなした昭和五八年分所得税に係る更正の請求に対する更正処分のうち、総所得金額五五七万一二六九円を超える部分及び昭和六〇年七月九日付でなした過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六一年五月六日付でなした過少申告加算税の変更決定処分により一部減額された後のもの)をいずれも取り消す。

(八)  杉並税務署長が控訴人滝谷守に対して昭和六一年六月五日付でなした昭和五八年分所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分及び昭和六〇年九月三〇日付でなした無申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六一年二月二六日付でなした異議決定により一部減額された後のもの)をいずれも取り消す。

(九)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

主文と同旨

二  事案の概要及び争点

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由「第二 事案の概要及び争点」(原判決四枚目裏一行目冒頭から七枚目表末行末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表三行目の「九条」の次に「一項」を、六行目の「である」の次に「か、同法三四条の一時所得である」を、一一行目の「右と同じ」の前に「特に記載するほかは」をそれぞれ加え、末行の「ところ」から同裏一行目の「略記する」までを削り、一〇行目の「更正等処分」の前に「更正の請求(3〈3〉)に対する」を加え、「〈3〉」を削り、一一行目の「原告滝沢が」の次に「、杉並税務署長は控訴人滝沢が」を、末行から六枚目表一行目にかけての「右と同じ」の前に「特に記載するほかは」をそれぞれ加え、同行の「ところ」から二行目の「略記する」まで、同行の「、杉並税務署長は原告滝谷が」をそれぞれ削る。

2  同六枚目表六行目の「異議申立」の前に「控訴人滝谷は杉並税務署長に対し、その余の控訴人らは札幌国税局長に対し、それぞれ」を、七行目の「札幌国税局長」の前に「杉並税務署長は控訴人滝谷に対し原処分の一部を取り消す旨の異議決定をなし(7〈4〉)、」をそれぞれ加え、「、これを」を「その余の控訴人らに対し各異議申立を」と改め、同裏四行目の「加算税」の次に「(控訴人高沢については無申告加算税)」を加え、五行目の「異議申立」から六行目の「7〈4〉、」まで削る。

3  同七枚目表五行目の「又は」を「に当たるものであり、仮にそうでないとしても」と、七行目の「昭和五八年」から八行目末尾までを「同法三三条三項二号の長期譲渡所得に当たるか(控訴人らは、右譲渡所得の収入金額の収入すべき時期は、昭和六〇年であって、昭和五八年ではないから長期譲渡所得に当たると主張する。)。」とそれぞれ改め、九行目の「当時」の前に「控訴人ら主張のとおり、リィフォー号の売買契約がなされたた昭和五八年」を、同行から一〇行目にかけての「リィフォー号」の前に「右売買の関係者に対し、」をそれぞれ加え、一一行目の「旨説明する」から末行末尾までを「等と説明、教示したか。右のような説明、教示がなされたとしたとき、本件課税等処分が違法となるか。」と改める。

三  証拠

原審及び当審訴訟記録中の証拠目録の記載を引用する。

四  当裁判所の判断

当裁判所も控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由第四、一ないし三(原判決七枚目裏五行目冒頭から一七枚目裏五行目末尾まで)に説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  掲記の証拠の摘示中、各「証人」を「原審証人」と、各「原告岡田」を「原審における控訴人岡田」とそれぞれ改める。

2  原判決七枚目裏九行目の「三一社で」の次に「シンジケートを組み」を、一〇行目から一一行目にかけての「七二〇万四七六八円」の次に「。なお、昭和五八年当時、控訴人岡田及び同滝沢の持株は各〇・五株、その余の控訴人らの持株は各一株であった。」をそれぞれ加え、八枚目裏四行目の「個人の資格で」を「各自がその持株に応じたリィフォー号の持分を個別に売却する方法で」と、五行目の「乙七一」を「乙七〇、七一、八八」と、六行目の「原告岡田」の前に「当審証人井高、」を加え、一一行目の「秀春」を「矢野秀春(以下「秀春」という。)」と、「服部」を「服部和則(同人はリィフォー会の会長を務めていた。)」と、九枚目表三行目の「ベラフォンテ社」から同行末尾までを「リィフォー号をヒダカエンタープライズにおいて取得し、ヒダカエンタープライズがベラフォンテ社に売却する方法をとる」とそれぞれ改め、六行目の「証人」の前に「七〇、七一、八八」を加える。

3  同九枚目表七行目から八行目にかけての「に対し」を「との間で」と同行の「売却」を「売却する旨の契約を締結」と、九行目の「売買契約」を「売買契約書」と、「存在しなかった。」を「なかったが、手付金は二〇万米ドルとし、残金四五五万米ドルは手付金納入後二週間以内に支払うこと、リィフォー号の引渡時期はベラフォンテ社からヒダカエンタープライズの口座に手付金が納入された時とし、引渡場所はヒダカエンタープライズの指定する牧場とすること、引渡後はベラフォンテ社において危険を負担し、引渡後の全ての経費は同社が負担すること、同社は手付金納入と同時に保険に加入し、残金支払までの保険受取人はヒダカエンタープライズとすることとされていた。」とそれぞれ改め、一一行目の「二〇万」の前に「手付金」を、「一七日に」の次に「残金」をそれぞれ加える。

4  同九枚目裏八行目から九行目にかけての「への引渡しのため、」を「の所在する」と、一〇枚目表一行目の「を売却した」を「が空輸された」とそれぞれ改め、二行目の「喜代春」の次に「、当審証人井高」を加え、四行目の「二〇日」を「二〇日付で」と、五行目の「に対し」を「の求めに応じて同人に対し」と、「リィフォー会」を「リィフォー会全会員」と、同行から六行目にかけての「に関する権限の」を「について」とそれぞれ改め、七行目の「乙六八」の次に「、原審証人喜代春」を、同裏二行目の「売り渡した」の次に「(以下、控訴人らとの間で締結されたこの売買契約を『本件各売買契約』という。)」を、末行の次に行を改め「右売買につきヒダカエンタープライズとリィフォー会会員との間で交わされた契約書(以下『本件譲渡契約書』という。)には、リィフォー号の所有権移転時期及び引渡しの時期は明記されておらず、同契約書第四条には、リィフォー号の管理地はヒダカエンタープライズの指定する場所とするとの規定があるが、同契約書中にはその管理の主体、管理権限の根拠等、右管理の意味するところに関連する規定はない。《甲一》」をそれぞれ加える。

5  同一一枚目表二行目の「として」の次に「一株当たり」を加え、五行目から六行目にかけての「を振り替えた定期預金を担保とし」を「の一部を静内農協の定期貯金としたものを担保として」と改め、七行目の「それぞれ」の次に「一株当たり」を、八行目の「乙七四」の次に「ないし七九」を、一〇行目の「延べ払い金」の次に「一株当たり」をそれぞれ加え、一一行目から末行にかけての「七五ないし八二、八三ないし八五」を「八一、八二」と改め、同裏六行目の「紹介した。」の次に「《原審証人喜代春、同小泉》」を加え、一一行目の「リィフォー号」から末行の「かった。」までを「リィフォー号売却についてのベラフォンテ社とヒダカエンタープライズとの交渉の内容やヒダカエンタープライズがリィフォー号を取得する方法等についての具体的内容は知らなかったため、具体的事実に即した説明、教示はしなかった。」と改め、「証人畑中」の次に「。右認定に反する原審証人小泉の供述部分はこれを採用しない。」を加える。

6  同一二枚目裏二行目の「ものであるから」を「のに、税務当局から譲渡代金全額を昭和五八年の所得として修正申告をするよう通知を受けたが、これは予想外のことであるから」と、三行目の「エンタープライズ」を「ヒダカエンタープライズ」とそれぞれ改め、四行目の「甲二」の次に「、控訴人岡田」を、六行目の「債務不履行」の次に「ないしは不法行為」をそれぞれ加え、「を提起した」を「(以下「別件訴訟」という。)を札幌地方裁判所に提起した」と改め、一三枚目表三行目の「主張」の次に「及び過失による不法行為の主張」を加え、五行目の「甲六」を「甲五、六」と、同裏七行目の「乙4」を「乙四」と、八行目の「原告らは」を「別件訴訟において」とそれぞれ改め、「ヒダカエンタープライズ」の前に「控訴人らと」を加え、、九行目の「を成立させた」を「が成立した」と改め、一一行目、一四枚目表一行目の各「である」の次に各「ことを確認する」をそれぞれ加え、七行目の「ないし八二」を「、八一」と改める。

7  同一四枚目表八行目冒頭から一五枚目表四行目末尾までを次のとおり改める。

「2 右認定事実によれば、昭和五八年九月五日のリィフォー会臨時総会で、改正規約に基づき総株数の三分の二以上の賛成を得てリィフォー号の売却が決議された結果、控訴人らは右決議に従うべき立場にあったのであるから、リィフォー号の売却による譲渡所得が長期譲渡所得となるかどうにかかわりなく、控訴人らがリィフォー号の売却を阻止するのは困難な状況にあったものということができる。とはいえ、右臨時総会で売却交渉等を委任されたリィフォー会の役員会は、その後リィフォー会の会員各自がその持分を処分する方法でリィフォー号を売却することとし、最終的には会員各自の判断でその持分を処分するかどうかを決めることとしたのであり、控訴人らは前記のような延べ払いの方法をとることにより税法上長期譲渡所得となるとの小泉税理士、服部、秀春らの報告を受けて、これを前提にヒダカエンタープライズと本件売買契約を締結することとしたと認められるから、仮に短期譲渡所得となるのであれば、被控訴人らは前記のような内容で本件各売買契約を締結しなかったと認める余地がある。そして、右譲渡所得が短期譲渡所得となることは後記のとおりであるところ、前記認定の事実経過からすれば、控訴人らがリィフォー号の持分売却による所得が長期譲渡所得となると信じて前記内容の売買契約締結に至ったことはヒダカエンタープライズにも表示されていたと認めることができ、服部らの右報告が税理士や税務署長に相談して検討した結果のものであったことからすると、右のように誤解したことについて控訴人らに必ずしも重大な過失があったとはいえないから、本件各売買契約は錯誤により無効であると認める余地がないではない。

しかしながら、別件訴訟は、リィフォー号がアメリカ合衆国へ空輸されてから二年近くを経て提起されたもので、控訴人らはヒダカエンタープライズに対し、リィフォー号の持分の返還がもはや事実上不可能であることを前提として右持分相当価額の損害賠償を請求したのであり、本件和解によりヒダカエンタープライズが控訴人らに支払うこととなった金員も同様の性格のものとされ、かつ、その額は支払済の売買代金と合計しても契約上の売買代金額を超えるものではない(控訴人らの主張によっても、損害賠償額が売買代金額より若干低額となったのは、売買契約では延べ払いとされていたのが、より早い時期での一時払いとなったため、実質的にその間の利息相当額を減額したことによるものにすぎず、原審において控訴人岡田も同旨の供述をする。)。そうすると、本件和解にあるとおり本件各売買契約が錯誤により無効であるか、あるいはそうでないかにかかわらず、右売買契約により生じた経済的成果は、控訴人らがヒダカエンタープライズからそれぞれ受領した合計金額の限度ではなんら失われていないのであるから、なお旧所得税法三三条にいう譲渡所得と認めるのを妨げないというべきである。」

8  同一五枚目表五行目冒頭から七行目末尾までを「3 控訴人らは、本件損害賠償金は旧所得税法九条一項二一号の非課税所得に該当すると主張する。」と改め、八行目冒頭に「しかしながら、」を加え、末行の「したがって」から同裏四行目の「ほかならない」までを「右規定の趣旨に照らせば、本件損害賠償金は、前示のとおり、本件各売買契約により生じた経済的成果を構成するものであって、不法行為その他突発的事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金ないしはこれに類するものに当たらない」と改め、七行目から八行目にかけての「、リィフォー号の売却代金として」を削る。

9  同一五枚目裏一〇行目の「の計上時期」を「が短期譲渡所得に該当するか」と改め、一六枚目表五行目の「搬出され」の次に「前記売買契約の約定によれば、これにより、同馬の引渡しを了したこととなる。)」を加え、七行目の「移転時期」を「留保」と、九行目から一〇行目にかけての「の保証で」を「の定期貯金を担保に、ほぼ」と、末行の「ベラフォンテ社へのリィフォー号売却」を「アメリカ合衆国へのリィフォー号空輸」とそれぞれ改め、同裏五行目の次に行を改め「また、仮に、本件各売買契約が錯誤により無効であるとしても、そのことの如何にかかわらず前示のとおり、控訴人らがヒダカエンタープライズからそれぞれ受領した金員は、その経済的成果が存続する限度では、瑕疵のない売買契約の場合と同様に譲渡所得に当たるのであって、その収入すべき時期は昭和五八年というべきである。」を加える。

10  同一六枚目裏六行目の「この点」の次に「につき」を加え、「リィフォー号の延べ払い条件付」を「本件譲渡」と、七行目の「昭和六一年」を「昭和六〇年」と、一一行目の「前記のような」から末行末尾までを「前記認定事実(原判決引用)からすれば、右主張のような所有権留保をすることがベラフォンテ社とヒダカエンタープライズ間の売買契約の趣旨に反することは明白であり(それゆえに所有権留保の趣旨を同契約書に明記できなかったことが原審証人喜代春の証言により認められる。)、リィフォー会会員において、ベラフォンテ社はもちろんヒダカエンタープライズに対しても、留保した所有権を実際に行使する意思も、その必要もなかったことは明らかであって、既にベラフォンテ社にリィフォー号が引渡され、その管理支配が完全に移っている以上、このような文言上も趣旨不明で、かつ実体を全く伴わない契約条項によって譲渡所得の収入すべき時期が左右されることはないというべきである。」と、一七枚目表二行目冒頭から三行目末尾までを「したがって、控訴人らがヒダカエンタープライズから受領した前記金員は、その名目が売買代金であるか損害賠償金であるかにかかわらず、昭和五八年に収入すべき譲渡所得であるから、これが短期譲渡所得となることは明らかである。」とそれぞれ改める。

11  同一七枚目表五行目冒頭から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人らは、畑中が、リィフォー号がアメリカに行ってもよい、要は契約が重要で、現実の引渡し時期と違っていても契約上リィフォー号の引渡しを遅らせれば長期譲渡所得となると説明した旨主張し、原審証人喜代春、同小泉は、右主張に沿う供述をする。

しかし、税務署長の立場にあった畑中が、架空のものであっても引渡時期を契約書上定めておけば、実際の引渡時期は違ってもかまわないなどと脱税を慫慂するにも等しい説明をしたとは容易には考えられないし、畑中がそのような説明をすべき理由も証拠上見当たらない(仮に畑中がリィフォー号がアメリカに行ってもよいと述べたとしても、前記認定のとおり畑中はリィフォー会会員ヒダカエンタープライズとの間及びベラフォンテ社とヒダカエンタープライズとの間でリィフォー号の引渡し等が実際にどのようになされるのかを具体的に知らなかったことから、資産の譲渡所得に関する一般論の延長として、リィフォー号がアメリカ合衆国に行っても、単に契約書上だけでなく実際に同国で同馬を引渡すことを前提として、そのように説明したとも考えられる。)。

むしろ、原審証人喜代春の証言によれば、税務調査の結果、昭和五八年の譲渡所得として申告すべきであるとの指摘を受けたため、喜代春が畑中に抗議に行ったところ、畑中は、所得税基本通達三六-一二(同通達は、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、その基因となる資産の引渡しがあった日によるとしている。)を示して自分の説明に誤りはないと反駁したことが認められることからすると、畑中は同通達に従った説明をしたものと認めることができる。しかし、原審証人喜代春は「所有権の引渡し」と述べるなど、所有権移転と引渡しについて混乱した理解をし、また、譲渡所得の収入すべき時期については所有権移転時期が重要であると認識していたことがその供述内容から見取れることからすれば、同証人は畑中の説明を正確には理解していなかったものと推測できる。

また、原審証人小泉は、昭和五八年一一月ころに本件譲渡契約書を見ていたと供述するところ、同証人が畑中の説明として理解したところについての供述からすれば引渡時期を契約書上明記することこそが重要であるのに、その点の不備も指摘していないうえ、なお、原審においても同馬の譲渡の時期は昭和六〇年と考えるなどと誤った見解を述べていることからして、小泉税理士も畑中の説明を正確に理解していたか疑われるところである。

右のような事情に照らすと、畑中の説明を受けた者らが、畑中の説明の趣旨を正解せずに独自の理解に基づいて税金対策を考案し、これに基づき本件譲渡契約書を作成し、控訴人らにも前記のとおり報告するに至ったものと推認されるのであって、控訴人らの前記主張に沿う前記各証拠は採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

したがって、右主張を前提として本件課税等処分が違法であるとする控訴人らの主張は理由がない。」

五  よって、これと同旨の原判決は正当であって、本件各控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本増 裁判官 河合治夫 裁判官 高野伸)

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